2008.03.25(Tue)

「夜長姫と耳男」坂口安吾 ~傑作選  

 オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、
「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオレの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。青笠(アオガサ)や古釜(フルカマ)にくらべると巧者ではないかも知れぬが、力のこもった仕事をしますよ。宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝かしく思われるほど深いイノチを現します。オレが病気のために余儀なく此奴を代理に差出すわけではなくて、青笠や古釜と技を競って劣るまいとオレが見込んで差出すものと心得て下さるように」
 きいていてオレが呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの過分の言葉であった。


 これは「夜長姫と耳男」の書き出し。飛騨地方を旅行したことで生まれた安吾の異色作の1つ。アナマロ、青ガサ、フル釜、チイサガマなど、ユニークな名が続々登場。天真爛漫な夜長姫の秘める残酷さに、耳を斬り落とされても一心不乱に冥府魔道を超えんとするミロク像を作りつづける飛騨のタクミ耳男(ミミオ)のいちずな魂が立ち向かう。同系の「桜の森の満開の下」より寓話性の強い作品。

 ほかの作品では [小説]=「黒谷村」「アンゴウ」「紫大納言」「白痴」「桜の森の満開の下」「不連続殺人事件」/[評論]=「不良少年とキリスト」「教祖の文学」「デカダン文学論」/[エッセイ]=「風と光と二十歳の私と」「真珠」「小さな山羊の記録」 …などもお奨めです。

   「夜長姫と耳男」坂口安吾 青空文庫
   坂口安吾 - ウラ・アオゾラブンコ
   坂口安吾の世界~洋書仕様「桜の森の満開の下」
スポンサーサイト
EDIT  |  00:55 |  CM 文庫 ............  | Top↑
 | BLOGTOP |