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2008.07.26(Sat)

映画「蛇にピアス」 


 
 賛否両論あった金原ひとみの芥川賞受賞作「蛇にピアス」を蜷川幸雄が映画化。7月15日には完成報告会見も開かれ、9月20日の公開を待つばかり。原作に照らしてみると、ストーリーの脈絡を十分に描ききれずやや不備があるものの、映像化するときにはそれが欠点にならないというメリットがあります。

 映画の場合、あるシーンからまったく別のシーンへ、平気で飛びますからね。脈絡がなくても違和感がない。なので(作者には少々失礼ですが)案外、原作よりも完成度のたかい作品に仕上がっているかもしれません。

 2004年の芥川賞ダブル受賞当時は、どちらかというと、夏目漱石や芥川龍之介らを出発点とする伝統的な日本文学の系譜を匂わせる綿矢りさ(「蹴りたい背中」)のほうが意欲的に作品を発表してゆきそうな印象を抱いたものでしたが、実際に切れ間なく作品を発表してきたのは、欠点と可能性(将来性)が混在していた彼女(金原ひとみ)のほうでした。……「アッシュベイビー」「AMEBIC」「オートフィクション」「ハイドラ」「星へ落ちる」など。

 ご参考までに、芥川賞発表の翌月、選考委員の選評とともに全文が掲載された文藝春秋を発売日に買って読み、その2~3日後にしたためた作品評を、下記に併載しておきます。(この原稿はHPにアップしているファイルです)


  映画『蛇にピアス』公式サイト
  news 映画「蛇にピアス」完成報告会見-蜷川幸雄監督や金原ひとみさん



パンクのかなた~「蛇にピアス」金原ひとみ~


 表題のピアス・刺青・セックス、そして暴力。これが、この小説を取り巻く品々。おもな登場人物は、私=ルイ、同棲相手=アマ、ピアス職人&彫り師=シバの3人。

 なかでも、作品の鍵を握るのが、

 左眉に三本4Gの針型のピアスを刺し、下唇にも…三本同じピアス …中略… タンクトップからは龍が飛び出し、真っ赤な髪はサイドが短く刈り込まれていて、太いモヒカンみたいな形―

 をしたアマという人物。キレると止まらないヤバさを持っている。職人のシバは、ルイが唯一「さんづけで呼ぶ」年長者で、全身がピアスと刺青のキャンバスと化している。肉体をいじるときにはイカレた顔を見せるものの、それ以外の面ではまっとうな人物といっていいかもしれない。

 問題は、この小説のメイン・テーマを、どこに、またどのように見出すか、という点ではないかと思います。描かれる世界は狭い。しかしその世界が、あたかも、この世に存在する世界のすべてであるかのように描かれる。

 上記品目に取り巻かれ日々過ぎてゆく私=ルイの中に、しみだすようなかなしみを見いだすことは可能ですが、絶望的なほど癒しがたい深いかなしみ、というほどの伝わり方はないように思います。おそらくそれは、私=ルイの「他者へそそぐ愛」というものが、十分に育まれていないせいではないだろうかと、そんなふうに感じました。

 それから、語り部でもある私=ルイは、舌のピアスのほかに、背中に「龍」と「麒麟」の刺青を、4ヵ月かけて、シバに彫ってもらうわけですが、数度でてくる刺青を彫るシーンの描写からは、sex以外の“絵”が、十分に浮ばない憾みがあります。もっとも作者の狙いは、まさに、そのsexの場面を描くことにあったのかもしれませんけれども……。

― 多分私はうつろな目をしていたんだと思う。シバさんのチンコには血管が浮き立っていた。
「濡れてんの?」
 小さく首を縦に振ると、シバさんはまた私を抱き上げ寝台に座らせた。私は無意識に足を開いていた。 …中略… シバさんは指を二本入れ、何度かピストンさせるとすぐに引き抜き、汚い物をを触ったように私の太股に濡れた指をなすりつけた。シバさんの表情を見て、また濡れていくのが分かった。
「入れて」
 そう言うとシバさんは太股でぬぐった指を私の口に押し込み、口の中をまさぐった。


 しかし、ピアスにしても刺青にしても、ヴィジュアル系の世界を扱っていることに変わりはないので、文字通り、目に浮ぶようなヴィジュアルな描写を、もうすこし狙ってほしかったという思いは残ります。

 ただ、「アマを描いたくだり」には、才能の片鱗を感じさせるものがありました。

 ルイと彼女の女友だちマキとアマの3人で飲みにいった帰り、ルイがチンピラ風の若い男2人にからまれ、ちょっかいだされたとき、突然キレたアマは、そのうちの1人を撲殺してしまう。

― アマは無言のまま、私の声が聞こえているのかいないのか、また拳を男のこめかみに叩きつける。
………………… 中 略 …………………
「アマ!」
 怒鳴ると、アマはようやく体の力を抜いた。正気に戻ったかとホッと息をついた私の目に映ったのは、男の口の中をまさぐるアマの指。 …中略… アマは私の隣りにしゃがみ込むと血まみれの右手を出し、拳を開いた。そこには一センチ程の赤い物体が二つ。すぐに、あの男の歯だと分かった。
「ルイの仇、取ってやった」


 そんな屈折した愛情表現をするアマが、その後バイトへ出かけたきり、何の連絡もないまま、プッツリと消える。やがて、横須賀で遺体となってルイの前へ現われるアマ。しかしその体はいじるだけいじられ、弄ばれたあげくに殺された、無慚な姿をさらしていた。

 犯人は誰なのか? 一瞬、撲殺した男の仲間(ヤクザの組員)の仕業と思われるものの、のちの警察の聞き込みから、バイセクシャル(=同性愛)の相手とのトラブルから殺されたような気配がただよってくる。

 作者は、(おそらく)不明なままにしておきたいと願う私=ルイの思いにそって、アマの死因をはっきりさせないまま物語りを終えるわけですが、アマが失踪して遺体で発見されるまでの「空白」の作り方は、この作品の中でも最もインパクトが強く、(それが意図的に設定されたものだとしたらなおさら)相当な力量を感じさせます。

 何一つその消息が語られないため、読み手は無意識裏に、いろんなことを思いめぐらすことになり、アマというパンクな男の人物像が、奇妙なリアリティを持って読み手の脳裏に消えては浮ぶという、高度な仕組みになっているわけです。



  今月のひと 受賞者インタビュー 金原ひとみ(「すばる文学カフェ」)

2004.2.17
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